2025-03-09

カミングアウトとアウティングを法的に考えてみた:後編(弁護士コラム)

<要約>
裁判所はアウティングを原則違法と判断しており、アウティングをした人は民事上の損害賠償責任を負う可能性があるほか、行為態様によっては刑事処罰を受ける可能性もあります。
カミングアウトの悩み、アウティングの悩みなどはひとりで抱えないで信頼できる人に相談してください。

目次

1 カミングアウトするかどうか、タイミングや範囲も自由

前編は、カミングアウトする自由、しない自由、カミングアウトのタイミングや範囲を決める自由は、憲法13条1によって保障されていると考えられるというお話をしました。

後編では、カミングアウトに関連してアウティングについても法的に考えてみましょう。

2 アウティングは法的にも許されない

(1)アウティングとは

性的指向や性自認に関する情報は、本来は本人がコントロールするべきであるのに、他人が勝手に第三者にばらしてしまうことを「アウティング」と言います。アウティングは、本人のプライバシーや自己決定権を奪う、してはいけない行為です。
「アウティング」という用語は、2016年に提訴された「一橋大学アウティング事件2」で世間に広く知られるようになりましたが、それ以前からセクシュアルマイノリティ(以下「セクマイ」)たちを悩ませてきました。

(2)アウティングがよく起こる場面

アウティングは、うっかり起きてしまう場合、悪意を持って行われる場合、親切のつもりで行われる場合など様々なシチュエーションで起こります。マッチングアプリなどのSNS上で、意に反して、セクシュアリティが知られてしまうということも起こっています。

①他人に告げてはいけないとわかっていなかったり、うっかり話してしまうケース

  • カミングアウトを受けた人が、アウティングが許されない行為であるとの認識が欠けているために、本人の同意なく、相談や雑談等の形で、親族や友人、同僚などに話してしまう
  • 話すつもりがなかったのに、他人との会話の中で、その人がセクマイだとわかるようなことを口走ってしまう

②セクマイに対する偏見に基づいて、周りに知らせるケース

  • 「狙われないように気をつけたほうがいい」など

③(元)恋人などからのアウティング

  • 「別れるならバラす」等と言って、恋人を自分の思い通りにコントロールするためにアウティングをちらつかせる
  • 元恋人が別れた報復のためにアウティング

④マッチングアプリ等のSNSによるアウティング

他のものとは少し性質が違いますが、マッチングアプリ等のSNSに載せている情報から意図しない相手にセクシュアリティが知られてしまうということもあるので、アプリのプライバシー設定にも注意が必要です。

(3)裁判所もアウティングは「許されない行為」と言っている

東京高等裁判所は、「アウティング」を人格権ないしプライバシー権等を著しく侵害する許されない行為であることは明らかとするとともに、当時の加害者学生の置かれた状況も、アウティングを正当化する事情とはいえないとしました(いわゆる「一橋大学アウティング事件」の控訴審判決)。

したがって、もしアウティングが起きてしまい、それによりアウティングされた人に何らかの損害が生じたとして訴訟を起こした場合、裁判所は原則としてアウティングした人に対し損害賠償を命じることになるでしょう。

(4)場合によっては刑事処罰がなされることも

例えばセクシュアリティを会社にバラすぞと脅して、金銭を脅し取ったような場合、恐喝罪が成立する可能性があります。

その他、アウティング行為の態様によって、名誉毀損罪や侮辱罪、強要罪が成立する可能性もあります。

3 辛い状況にある方は相談してください

(1)アウティングを完全に防ぐことは難しい

カミングアウトは、伝える相手がいて他人が関わることなので、伝える人がどんなに準備しても完璧にコントロールすることはできません。

『カミングアウト・レターズ』3のようにうまくいくこともあれば、残念ながら相手から否定的な言葉を投げかけられたり、拒絶されたり、アウティングされたりしてしまうこともあります。

どうか自分を責めないでください。

(2)相談先があります

カミングアウトがうまくいかなかったり、アウティングされてしまったりして、しんどい気持ちや状況になった時には、信頼できる人に頼ってください。coLLaboにも相談窓口(coLLaboLINE)があります。あなたはひとりではありません。

みらいふWebにもサバイブしている先輩たちのストーリーが載っています。あなたの人生のヒントになるかもしれませんね。

言葉の説明

  1. 日本国憲法:国民の権利や自由を守るために、国がやるべきこと、やってはいけないことを定めた日本の最高法規。
    憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定めています。
    条文に自己決定やプライバシーという言葉は登場しませんが、幸福追求権の一内容として、自己決定権やプライバシー権が認められています。 ↩︎
  2. 一橋大学アウティング事件:2015年、当時一橋大学法科大学院の学生であったゲイ男性のAさんが、親しいクラスメイトの男性のBさんに恋愛感情を持っていると告白したところ、後日同級生のグループLINE上で、BさんによってAさんがゲイであることを暴露され、それをきっかけに体調を崩したAさんが、校舎の6階から転落して亡くなったという悲しい出来事がありました。Aさんの遺族は大学とBさんを相手として、損害賠償を求める訴訟を起こしました。東京高裁は判決理由の中で、アウティングは人格権ないしプライバシー権等を著しく侵害する許されない行為であると明言し、当時のBさんの置かれた状況からしても、アウティングは正当化されないと判断しました。なお、Aさんの遺族は裁判の途中でBさんとは和解し、大学との関係では地裁・高裁ともに敗訴し、判決が確定しました。 ↩︎
  3. 『カミングアウト・レターズ』:ゲイやレズビアンの子とその親、生徒と教師との手紙のやり取りをまとめた書籍。出版年は2007年。RYOJI・砂川秀樹編。 ↩︎
text:attorney-at-law Maiko Sato / photo:Emi Yasuda / みらいふ編集部
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