<要約>
性的指向や性自認をオープンにしている人の数は年々増加傾向にあるように思われますが、必ずいつかカミングアウトしなければならないと感じる必要はありません。カミングアウトする自由、カミングアウトしない自由、カミングアウトする場合、伝える範囲もタイミングもすべて自分で決める自由は法的にも保障されています。
1 カミングアウト、なぜしたいか
(1)カミングアウトが必要になる理由
私たちの暮らす社会では、生まれた時に割り当てられた性別1で生きることに違和感がないこと(シスジェンダー)、異性愛者であることが「普通」とされてきました。「私は異性愛者ではありません」とわざわざ言わなければ、周囲からは異性愛者とみなされ、性役割に沿ったふるまいを求められます。
(2)カミングアウトするかどうか悩む人は多い
シスジェンダーかつ異性愛者であるということにして生きていくのか、あるいはカミングアウトするのか。カミングアウトするとすれば誰に、いつ、どの範囲で伝えるか。シスジェンダーでない人や異性愛者でない人は、悩んだ経験のある方が多いのではないでしょうか。
(3)オープンにして活動している人たちは年々増えている
レズビアンやパンセクシュアル(全性愛)を公表して活動している人たちは年々増えてきていると思います。いわゆる同性婚訴訟の原告さんたちのようにこの社会を生きやすくするために活動してくれている人たちや、最近だとYoutuberも多くいますよね。キラキラしていて素敵だな、自分もそうなりたいなと思っている人も少なくないと思います。
2 社会を良くするためにカミングアウトするべき?
ところで、カミングアウト、もしできるならみんながするべきなのでしょうか?
世界中で過去に多くのレズビアンの先輩たちが「私はレズビアン」と公表してきてくれたことで、女性同性愛者という存在が可視化され、法律や社会を変える一つの要素となったことは疑いようがありません。そういった社会への影響という意味では、より多くの人がカミングアウトしたほうが良いのかもしれません。
3 個人の幸福という意味ではどうか
(1)カミングアウトのメリットと言えそうな点
それでは、個人という観点ではどうなのでしょうか。
カミングアウトしている人たちの多くがカミングアウトしてよかったこととして語るのは、「自分の本当の生活や考えを隠したり、嘘をついたりしなくて良くなった」ということだと思います。
メンタルへの影響や就業意欲などとの関係については、認定NPO法人虹色ダイバーシティによる調査が行われているなど、さまざまな調査・研究がなされています(「LGBTQの仕事と暮らしに関するアンケート2023」等)。
カミングアウトしたおかげで自分らしく暮らせてQOLが上がるということもあるでしょうし、カミングアウトしても大丈夫と思えるような環境に身を置くことも幸福度を上げることにつながるかもしれませんね。
(2) カミングアウトのリスクと言えそうな点
一方で、まだまだLGBTQに対する偏見を持った人も少なくないなか、カミングアウトをしてその人との関係が悪くなったり、コミュニティに居られなくなったりするという困った状況になってしまうこともありえ、リスクもあります。
4 法的にはどうか
(1)憲法はどう言っている?
カミングアウトについて、法律家の目線で、法的に考えてみましょう。
日本国憲法2は、人間を個人として扱い、個人の人格が尊重されるべきことや個人が法の下に平等であることを定めています。
そして、性的指向や性自認をカミングアウトするかどうかの問題は、プライバシー権や人格権に関する問題だと考えられています(後述する一橋大学アウティング事件判旨等)。
人格権やプライバシー権という言葉は、憲法に直接書かれてはいませんが、個人の尊厳について定める憲法13条3を根拠に憲法上認められている権利です。
(2)カミングアウトする自由・しない自由は憲法が保障している!
先に述べたとおり、カミングアウトをしなければほぼ自動的に異性愛者であったり、シスジェンダーとして扱われてしまうので、周囲との関係ではカミングアウトをしなければ、自分らしく生活することが妨げられてしまうという状況に置かれがちです。
カミングアウトする自由は、個人が自分に関することを自分自身で決定し、自分らしく生きていくために不可欠と言えます。
もちろん、オープンにしないで生きていきたいという人にとっては、カミングアウトをしないことも、個人の自己決定として尊重されます。
また、プライバシー権は、私生活の秘密を公開されない権利であると同時に、自己に関する情報を誰に、どこまで公開するかについて自らコントロールする権利でもあります。
(3)カミングアウトするか、伝える範囲もタイミングも自分で決めていい
つまり、すべての人に性的指向や性自認をカミングアウトをする自由があると同時に、カミングアウトしない自由もあるのです。また、カミングアウトする場合、伝える範囲もタイミングもすべて自分で決めてよいのです。
自治体の条例にも、このような憲法の考え方にならい、カミングアウトの自由を保障し、カミングアウトの強制やアウティングの禁止を明記するものがあります(東京都国立市、三重県、埼玉県等)。
5 おわりに カミングアウトがうまくいかなくても
(1)カミングアウトは一度で完璧にいかないことも多い
カミングアウトは、伝える相手がいて他人が関わることなので、伝える人がどんなに準備しても完璧にコントロールすることはできません。1回で伝わらず、何年もかけて繰り返し伝えていく必要がある場合もあります。
『カミングアウト・レターズ』4のようにうまくいくこともあれば、残念ながら相手から否定的な言葉を投げかけられたり、拒絶されたり、アウティングされたりしてしまうこともあります。
(2)相談に乗ってくれる人がいます
カミングアウトがうまくいかなかったり、アウティングされてしまったりして、しんどい気持ちや状況になった時には、信頼できる人に頼ってください。coLLaboにも相談窓口(coLLaboLINE)があります。あなたはひとりではありません。
みらいふWebにもサバイブしている先輩たちのストーリーが載っていますので、ぜひ読んでみてくださいね。
言葉の説明
- 出生時に割り当てられた性別:赤ちゃんが誕生した時、医師が性器の形の特徴などから性別を判断し、出生証明書に記載しています。「生まれた時の性別」、「身体の性別」、「生物学的性」と表現されることもありますが、厳密にいえば遺伝子の検査をしているわけではなく、性器の外形も個人によって多種多様であるため、医師等の判断により割り当てられるという要素があります。そのため、ここでは「出生時に割り当てられた性別」という言葉を使います。 ↩︎
- 日本国憲法:国民の権利や自由を守るために、国がやるべきこと、やってはいけないことを定めた日本の最高法規。 ↩︎
- 憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定めています。
条文に自己決定やプライバシーという言葉は登場しませんが、幸福追求権の一内容として、自己決定権やプライバシー権が認められています。 ↩︎ - 『カミングアウト・レターズ』:ゲイやレズビアンの子とその親、生徒と教師との手紙のやり取りをまとめた書籍。出版年は2007年。RYOJI・砂川秀樹編。 ↩︎

