2025-10-01

中国から日本へ。研究者として日本で暮らす女性の同性カップルに立ちはだかる現実

プロフィール

右/TSUJさん(31歳、レズビアン、大学院学生、中国江蘇省出身)

左/SEKIさん(28歳、バイセクシュアル、大学院学生、中国湖北省出身)

パートナーシップ 2020年~(2025年現在、5年目)

住まい 茨城県

利用制度 パートナーシップ制度 なし 公正証書:なし 緊急連絡先カード:あり(学校の緊急連絡先をお互いにしている、手作りのカードを持っている)

筑波大学の大学院で出会ったTSUJIさんとSEKIさん。性格も行動も全く異なるお2人ですが、そんな中でも話し合いや小さな行動がお互いの関係性を強固なものにしているといいます。お互いを支え合いながら、今の生活を共に歩む彼女たちの物語を辿っていきましょう。

目次

カミングアウトがきっかけで深まった絆

ーお2人の最初の出会いについて教えてください。

TSUJI:2人とも筑波大の大学院にいました。初めての出会いは私が修士2年の頃、彼女が研究生としてゼミに入ってきた時です。ちゃんと話すようになったのは、私が博士1年になってから。

ゼミで自分の論文を発表する機会があり、私はセクシュアルマイノリティについてのテーマを発表しました。当時はコロナ禍の真っ只中で、授業も全部オンラインになっていて。発表が終わった後、みんなで研究内容について話し合う流れになったんですが、会話の流れでSEKIさんがカミングアウトしました。

あの時の彼女の発言、すごく印象に残ってます。みんなとは初対面に近いのに、しかもオンラインの場で、ちゃんと自分の意見を言えるのってすごいなって。その時から、SEKIさんって勇気のある人だなと思いました。

SEKI:「応援したい」と思ったんですよね。TSUJIさんの研究って、自分自身と真剣に向き合って、それをテーマにしてるというか。ものすごく勇気がいることだと思うんです。

当時の私にはまだできなかったことだったからこそ、余計に「すごいな」って思ったし、「よくぞそこまで踏み込んだな」って感じて。だからこそ、その研究を心から応援したいと思って話しました。

ーSEKIさんがカミングアウトしてから仲良くなったのでしょうか。

TSUJI:そうですね。SEKIさんのカミングアウトがひとつのきっかけになりました。私の場合、自分のセクシュアリティなどをある程度オープンにしないと、相手と本当に親しく深い関係を築くのは難しいと考えています。

実際に自分のことをカミングアウトしたことで、そこから関係が少しずつ変わっていきました。勉強会に誘ったり、一緒に焼肉に行ったりするようになり、そういう日々の関わりの中で自然と距離が近づいていったように思います。

「自信を持てなかった私を受け入れてくれた」


ーお互いに好感を持つタイミングはありましたか?

SEKI:最初から好感を持っていました。ただ、この「好感」は、恋愛感情というより、ある歌手の歌に感動するような感覚に近くて、「こんな研究をしている人がいるんだ。すごいな」と憧れのような感覚に近かったです。

それから少しずつ関係が深まる中で、自分の過去のことを話す機会も増えてきて、彼女が私のことをちゃんと受け止めてくれたというか、認めてくれたように感じたんですね。

当時の私は自分にまったく自信が持てなくて、どこか常に自分を否定してしまうようなところがあったんです。そんな中で、憧れの人に「あなたのままでいい」と言ってもらえたような感覚があって、本当に救いになったというか。あの時の感覚は、私にとってすごく大きなものでした。

TSUJI:SEKIさんから告白されたんです。当時の私は26歳くらいで、それまで恋人をつくろうといろいろ頑張っていたんですけど、うまくいかなくて。アプリも使ってみたけれど、なぜか全部、勉強仲間のような関係で終わってしまっていて。「もしかしたら私は、恋愛に向いていないのかもしれない」と思い始めていた時期でした。これからは1人で生きていく道も真剣に考えていたんです。そんな時にSEKIさんと出会って告白されました。それがきっかけで「リアルな恋愛関係を、自分も本気で考えてみてもいいのかもしれない」と、少しずつ思えるようになったんです。

私は告白される前からSEKIさんには好意を持っていたんだと思います。ですが、当時はあまり自覚がなくて、「もっと話したい」「いろんなことを一緒に語りたい」という気持ちだけが先立っていた感じでした。「好き」とか「恋愛」とか、そういう感情はまだ曖昧で。

だから、最初に告白されたときは驚きが大きくて、一度は「やっぱり別の人を探した方がいいかも」なんて話をしたこともありました。でも、それでも私たちはちゃんと話し合いを重ねて、そのやりとりの中で私自身、「私は本当にSEKIさんのことが好きなんだな」と気づいていったんです。そして、自然な形でお付き合いを始めました。

「話し合い」が導く深い関係性


ー「別の人を探した方がいい」と伝えた理由は?

TSUJI:当時の私は、恋愛関係を築く自信がなかったんだと思います。「自分にはできない」とか、「もっと経験のある人を選んだほうが、相手のためになるんじゃないか」とか、そんなふうに思い込んでいて。でも今振り返ると、ちょっとひどい考え方だったかもしれません。

SEKI:過去のことって、もちろん影響はあると思うんですけど、それが「今の自分そのもの」とは限らないとも思うんです。私自身、以前の恋愛でちょっとトラウマになるような経験があって、誤解されたりすることが怖くなってしまった時期もありました。

でも、TSUJIさんは私が話すことをきちんと聞いてくれる人で安心感があるから、今はあまり不安を感じることはないですね。何かを我慢するとか、言いたいことを飲み込む必要がないって思えることがすごくありがたくて。やっぱり私にとっていちばん大事なのは、ちゃんと話し合えることなんだと思います。

ー付き合うまでには時間がかかったようですが、当時のことをもう少しお伺いしてもよろしいでしょうか。

TSUJI:告白されたあと、私は1時間かけて「他の人を探した方がいい」という内容の手紙を書きました。自分の気持ちにまだ確信が持てなかったんです。そんな中、SEKIさんは、小さなクマのぬいぐるみを手作りして、私に渡そうとしてくれていました。

けど、私はそのプレゼントを受け取ることにも、少し戸惑いがあって……。「このプレゼントをもらうことに、どういう意味があるんだろう?」と考えていたんです。だから正直に「今は受け取れない」と伝えました。

SEKI:今思い返すと、結構自分勝手なことをしたなと思います。

TSUJI:このプレゼントのやりとりをきっかけに、「一度きちんと話そう」ということになりました。たしか夜だったと思います。つくば駅の近くで、2人で1時間以上かけてじっくり話し合いました。話し合いの中で、私はだんだんとSEKIさんのことを「怖い人」じゃなくて、「ちゃんと話ができる人」と認識しました。

そして、「この人とだったら少しずつでも関係を築いていけるかもしれない」と思い始めたんです。もしSEKIさんが少しでも強引だったり、怖い印象を持ったりしていたら、私はあの場で逃げるという選択をしたと思います。でも、そうしなかった。それくらい話し合えるということが私にとっては大きなことでした。

セクマイ研究の環境を求めて日本へ


ー日本に留学することを決意したきっかけは?

TSUJI:中国に残ってセクシュアルマイノリティに関する研究を進めようと考えていたこともあります。実際、卒業論文でもトランスジェンダーに関する文学作品を分析しました。しかし、発表の際に先生からホモフォビア的な質問を受け、私の研究内容とは全く関係のない問いが投げかけられました。

「もしあなたのルームメイトが同性愛者だったら、どうしますか?」と質問され、研究と無関係でとても困惑しました。当時、英語で発表していたため、冷静に回答することはできたものの、その時点で中国では自分が研究したいテーマを自由に追求するのが難しいと感じ、社会にも不満を抱えていました。

最初は台湾への留学を考えましたが、台湾は中国大陸からの学生に対してさまざまな制限※があり、アルバイトができないなどの事情もあり、最終的に日本留学を決めました。日本の文化が好きだったこともありますが、当時、元宝塚劇団員の東小雪さんのニュースを中国で見て、渋谷区の同性パートナーシップ制度や、セクシュアルマイノリティ女性の活動家たちの存在を知り、ここで研究を進める環境が整っていると感じました。また、日本は教育制度がしっかりしており、留学のハードルが低かったことも大きな理由です。

SEKI:多くの留学生に共通する理由かもしれませんが、日本の小説、アニメなどが好きだからです。小学校の5年生か6年生の頃から日本の推理小説を読み始めていて、それがきっかけで、大学では本格的に日本語を勉強しようと思ったのです。大学に入る前から日本に留学することを決めていて、大学1年生のときから日本語の勉強を始めました。この流れで留学への思いが本格的になったという感じです。

※注:台湾は、中国大陸からの学生に対して、他の国・地域からの留学生には適用されない独自の制限を設けています。これは、中国大陸が台湾を自国の一部と主張し、台湾がこれとは異なる立場(事実上の独立状態または将来的な独立)をとるという、両岸間の複雑な政治的背景によるものです。これらの制限は、教育交流を含む様々な側面に影響を与えています。

カミングアウトをせず同棲を伝える


ーお2人は同棲していますか?

TSUJI:2020年に同棲を始めました。付き合って3〜4ヶ月ほどが経った頃、SEKIさんから同棲しようと提案がありました。それまではSEKIさんが私の家まで来てくれていたんですが、私たちの大学は敷地が広くて移動に20〜30分以上かかることもあり、「通うのが少し大変だね」と話したこともありました。

現実的な理由からも、一緒に住んだほうが効率が良いかもしれないと思うようになったんです。当時、つくばの家賃は東京に比べるとかなり手頃で、私が住んでいた部屋も2〜3万円程度。2人で5万円くらい出せば、十分きれいで設備の整ったマンションに住めるということもあって、具体的に話が進んでいきました。最終的には2LDKの部屋を借りて、一緒に暮らすことになりました。同棲という選択は、私にとってもとても前向きな選択だったと思います。

ー同性カップルが同棲することに対して、困難だと感じることはありましたか?

TSUJI:むしろ、SEKIさんのお母さんが部屋を探してくれました。お母さんは中国に住んでいますが、日本の不動産サイトを見て、私たちのために物件を探してくれたんです。とてもいい部屋を見つけてくれて、そのおかげでスムーズに新しい生活を始めることができました。

SEKI:私は母親にカミングアウトをしていません。ですが、中国では友達とのルームシェアが一般的なので、特に疑われることはありませんでした。

TSUJI:すごく“安全な選択肢”だと思われていたんだと思います。もし、最初から私たちの関係性をはっきり伝えていたら、少し複雑な話になっていたかもしれません。だからこそ、「ただのルームシェアです」とだけ伝えた方が、むしろお母さんもすんなり協力してくれたのです。

お互いを尊重する生活術


ー生活を共にする中で意識していることはありますか?

TSUJI: 私の生活はかなりシンプルで、仕事や勉強だけに集中していることが多かったので、2人の時間を意識的に作ろうという気持ちがあまりありませんでした。むしろ、SEKIさんがいつも私の部屋に来て、一緒に話そうと誘ってくれていたのですが、私は仕事があるからと断ることが多かったんです。

そこから考えを改め、どうすれば良いかと考え、例えば自分の部屋のドアに「今は仕事の時間」とメモを貼るようにしました。あとは、お互いのカレンダーを共有して、仕事や勉強の時間と休憩の時間を分け、休憩時間には一緒に過ごせるように調整しました。そういった工夫をすることで、時間を上手に使えるようになりました。

SEKI: 最初は、TSUJIさんが食事中に携帯を見ながら食べるのが少し気になったんです。中国では、食事の最中に携帯を触るのは少し失礼に感じられることもあります。でも、TSUJIさんがその理由を説明してくれて、それが一番楽しい時間の過ごし方だと理解できました。お互いのペースを尊重し合い、違いを受け入れることが大切だと思います。

TSUJI:私は情報収集が大好きで、パソコンや携帯で常に情報を集めているタイプです。一方、SEKIさんはたくさんの友達と関わり、非常に社交的で充実した生活を送っているタイプだと感じます。私たちはお互いのペースを尊重しつつ、少しずつ工夫を加えて、コミュニケーションを良くするようにしています。

ーお互いのネットワークが違うのですね。

TSUJI:そうですね。SEKIさんは後輩たちの中で友達を作っていますが、私はどちらかというと、年上や日本の方々との交流が多いです。私は結構コミュニティに参加していて、その中で新しい情報や考え方を得ることができるので、それが好きなんです。

SEKI:私は大学中心ですね。大学の人間関係は、まずTSUJIさんと知り合ってから友達を作っていきましたが、今はほとんどの友達が就職したり帰国したりして、あまり残っていません。それに、博士課程に進んだので同級生もあまりいません。

私は自分から積極的に友達を作ろうというタイプではなく、自然と友達ができていくことが多いですね。また、日本での人間関係に加えて、中国にいたときの友達ともオンラインで交流しています。2023年には、4年ぶりに帰国して中国の友達を誘い、最終的に13人くらいと再会しました。

TSUJI: 私の場合、もともと友達はいるのですが、日本に来てからはあまり関係を続けることがなく、今は本当に2人くらいの友達としか連絡を取っていません。私はオンラインでのコミュニケーションが苦手で、実際に会って話す方が得意です。家に帰ると、また自分の情報収集の世界に戻る感じですね。正直、私はオタクですね。

ー日本で生活をしている中国人や留学生にアドバイスはありますか?

TSUJI:ネットワーク作りは重要だと感じています。例えば、私は現在講師をしているのですが、利用できる塾や組織がすでにある状態だったので、関係性を築くのがスムーズでした。ゼロから1人で新しい人間関係を作るよりも、こうした既存の組織を通じて繋がりを持つ方が簡単です。なので、まずは何らかの形で既存のネットワークに関わり、そこから関係性を築いていくことをおすすめします。

特に留学生が日本に来る時、多くの人がネットワーク作りを意識していないように思います。中には金銭面で問題がなければあとは問題はない、と思っている人もいますし、今では携帯電話で家族と連絡を取ることができるため、孤独を感じない人もいます。でも、いざという時、異国で生活する以上、必ずどこかでネットワークを作っておかなければならないと実感しています。

留学自体はできるかもしれませんが、どこかで問題が生じ、その結果帰国せざるを得ない事態が起きる可能性もあるのです。私の感覚では、そうしたリスクも常に意識しておくべきだと思っています。

おふたりからのメッセージ

TSUJI:近年、中国の状況が厳しくなってきているため、多くの中国人同性カップルが日本を含む他の国に移住しています。自分の故郷から離れて異国で生活するという選択は、相当大きな決断だと思いますが、多くの人が心の中で理想的なライフスタイルを求め、この決断をしたのではないでしょうか。私自身、日本は生活の質を確保できる環境だと感じています。もちろん、政治や社会に課題があるのも事実ですが、アルバイトをしたり、仕事を見つけたり、カミングアウトできたりする環境は、大きな魅力です。勇気を持って自分に合った場所を探せば、必ずいい環境が見つかると思います。日本に向けて中国から移住を考える人が増えているのはたしかで、みんなそれぞれ異なる考え方を持っています。ですが、さまざまな違いがある中で、しっかりと話し合うことでネットワークを広げられ、より良いつながりを作られるのです。

SEKI:狭い世界に閉じ込められないようにすることが大切だと思います。例えば、留学生が日本に来たばかりで、学校のゼミやアルバイト先など限られた環境だけで生活していると、その場所で何か問題を起こしたり、評価が良くなかった場合に傷つくことがありますよね。その世界の中で全てが決まるように感じてしまうことがあるので、もっと多様な判断基準に触れることが大切だと思います。もし何かうまくいかなくても、別の場所や環境ではうまくいくことがたくさんあるはずです。日本に来たばかりの留学生が「ここではうまくいかないかも」と感じてしまうのはもったいないと思います。自分の周りの世界だけが全てだと思わず、一歩踏み出して他の場所に目を向けると、まったく違った経験ができるはずです。例えば、自分の趣味に関連する活動をしてみたり、アルバイトを変えてみたり。新しい居場所を作ることで、きっと世界が広がります。日本はそんなに狭い場所ではないので、いろいろな可能性を試してみてください。そして、セクマイ女性として家庭を離れて自立することは、より多くの自由を意味するかもしれませんが、同時に自分自身をしっかり守ることにも注意が必要です。信頼できる人と悩みをたくさん相談するようにしましょう。

text by Honoka Yamasaki / photo by Emi Yasuda / interviewed by Emi Yasuda&みらいふ編集部

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