2024-06-12

【カップル】母ふたりで3人の子どもを育ててきた小野春さん&西川麻実さん

プロフィール

右/小野春さん(50代、P、イラストレーター、東京都出身、にじいろかぞく共同代表)

左/西川麻実さん(50代、Q、教育関係、神奈川県出身)

2004年頃~同居(2024年現在、約20年目)

東京都世田谷区

パートナーシップ制度 あり(2015年世田谷区・2023年ファミリーシップ制度、東京都
公正証書:なし 緊急連絡先カード:あり(QWRC

お互いの違いを尊重し合いながら、3人の子どもを育て、家族として暮らしてきた小野春さんと西川麻実さん。「結婚の自由をすべての人に」裁判の東京第一次原告であり、メディアにもたびたび登場しているおふたりに、みらいふならではの目線でお話を聞きました。

目次

【出会うまで】男性との結婚と自分探し

小野 私は幼少期から男の子が苦手なところがあって、高校は女子校だったんですが、ある女の子のことを好きなんじゃないかと思った時期がありました。大学生になって、周りが恋愛の話ばかりにしているので、男の子とつきあってみたんです。ちょっと不思議な、慣れない感じはあったけれど、これはこれで意外とおもしろいのかもと思いました。 それで男性と結婚して、子どももできたんですけど、いろいろと問題が起こって離婚が視野に入って、その中で自分はもしかしたら異性愛者ではないんじゃないか?という疑問を持つようになりました。うちにパソコンが来たので、インターネットで調べて、大量にヒットするポルノや出会い系を乗り越え、やっと見つけたのが「バイセクシュアルかもしれない」っていうサイト。自分と同じような人に会ってみたい、自分のことを確かめたいと思ってオフ会に参加して、出会ったのがあっちゃんでした。

西川 私はもともと結婚していたときに、ハワイでそのサイトを知りました。日本だと仕事があるし、友人もいるし、自分に向き合う時間があまりなかったんですよね。夫の仕事の都合でハワイに行って、ビザの都合で働けませんし、人間関係も夫のもの一色になってしまうので、自分と向き合わざるを得なくなった。それで、そのサイトの中でいろんなことを話しながら、自分のセクシュアリティを見つけていきました。チャットでの会話だけでなく、会って膝を詰めて話したいという気持ちがあってオフ会に参加したのですが、その頃にはもう夫とは一緒にやっていけないなと心が固まりつつありました。自分の立ち位置を異性愛者から同性愛者に変更する時期だったんです。

小野 あっちゃんの第一印象は「自分とは縁のなさそうな自由人だなぁ」という感じでした。

西川 春ちゃんは子どもがいたのですが、若いなと思いました。まだ子どもみたいなところのある、若いお母さん。

【おつきあい】先は見えないけど、とにかく好き!


西川 最初からわりとお互いに意識はしてたんですけど、先が見えなくて、どうなっちゃうのか、すごく頼りない状況でした。春ちゃんは「離婚とか絶対考えられない」って言ってましたし、「この先も夫とやっていくんだ」みたいな話が節々にあったので、まさか、こんなに長く春ちゃんと暮らすことになるとは(笑)。当時、生活とセクシュアリティを分離して生きている人は少なくなくて、春ちゃんもそっち方面かなという雰囲気がありました。私はもう同性愛者として生きていくんだって考えていて、春ちゃんは自分探し真っ只中みたいな感じだったから、差が激しかったですね。

小野 知り合った時点ではそれぞれ男性と結婚してました。その後、あっちゃんは離婚しました、でも私はまだ離婚できてません、その期間はあんまり会えていなくて、単なる友だち状態でした。夫が出てっちゃって、自分も離婚してシングルマザーになって、生活がボロボロになったとき、あっちゃんが助けに来てくれた。

西川 それまでは、探り合ってるというか、ギクシャクしてましたね。春ちゃんは家庭を壊したくない気持ちが強かったから、壊れたときはすごくショックを受けていましたが、私にとっては追い風でした。

小野 一緒に暮らしたいとか、先のことはぜんぜん考えられなかったんですけど、ただ、とにかく好きで、離れられない、この人がいないっていうことに耐えられない!と思いました。恋、だよね。初めての恋愛とは言わないんだけど、すごく強かったし、後がないって感じ。今だったら、世の中にはこんなにたくさんのLB女性がいるんだから、後なんかいっぱいありましたって思うんですけど(笑)。

【同居】子どもとの生活を回すための同居


小野 そんなわけでいろんなドロドロしたものを抱えながら、子どもがすでに3人いるところから、同居生活が始まっちゃったんです。ふたりで子どもを迎えて、というわけではなく。私は世間体が怖くて、親の反対もあり、同居は極めて難しい状況だった。だけど、自分が生活できてないからさ、そんなこと言ったってさ、手伝ってくれる人がいなかったらもうどうしようもないんです、みたいな感じで、なし崩しで一緒に住むことになりました。子どもとの生活を回す裏側で、大好きな人と暮らしてる!というのが両立している状態でした。

西川 私はもうすごくうれしくて、なんか楽しかったんですよね。子どもたちもかわいいし、好きな人と毎日一緒にいられるので、めっちゃ楽しかった。ただ、春ちゃんは離婚の痛手があって精神的にダメージを食らっていたうえに、自分は本当にこっちの人なのかしら?というセクシュアリティの不安があって、同性同士で暮らしていくロールモデルがないなかでこのままやってけるのかしら?という不安、暮らしに対する不安、恋人関係が長かったわけではないからこの人を信じられるのかしら?っていう不安と、けっこう大変だった。しかも、専業主婦だったのに働かなくちゃいけなくて、生活そのものがガラッと変わった。あんまり泣いたりしない人なんだけど、何かあると泣いちゃう、みたいな感じでしたね。

小野 その頃は日々すごい大変だったので、道筋も計画もぜんぜんなくて、ただともかくこの5人で暮らしてて、みんながある程度は「とりあえず楽しい」って思えるように、ということに気を配っていました。

西川 私自身は離婚から何年も経ってましたし、ちょっと子どもの数が多くなったけど、春ちゃんの子どもたちとももともと仲良しでしたし、良いほうの変化しか感じていなかった。でも、私の娘は春ちゃんに慣れるのに時間がかかってしまって。本(小野春さんの著作『母ふたりで“かぞく”はじめました。』)などにも書いてあるとおり、春ちゃんはステップファミリーという部分でも悩んでたんですよね。春はすごく困ってるんだけど私は浮かれてる、みたいな、温度差があったんです。

小野 だから、辛い気持ちを伝えようとしても、まったく理解されない。

西川 私は私で「なんで楽しくないの?」と、ちょっとどんよりしちゃう。話し合いにならないし、ぶつかることが多くて、難しい時期でしたね。

小野 最初っから子ども3人に振り回されてるので、大人ふたりの時間なんてものはないし、話し合う時間よりも子どもの相手をしなきゃいけない。そもそもちゃんと話し合ってスタートしたわけじゃないし、とりあえず目の前のことに必死になって対処するということの繰り返しで、流れ流れて、こうなったっていう。

西川 しょっちゅう「もうお別れだ」と言い合っていたのですが、途中で「そういうことを言うのはやめよう」という話になりました。この生活を成り立たせるためにやっていくしかないのに、お互いに疑心暗鬼になっちゃう。それならもう「お別れっていう選択肢はない」と腹を決めた。そこからはけんかしたとしても、建設的な話だと思えるようになりました。

小野 大人ふたりのカップルで暮らしてる人たちを見ると、こういうことを大事にしよう、将来こうしようとかいう話し合いがちゃんとできてるなと思うし、それに沿ってライフプランを立てて進んでいこうとしているのを感じるんだけど、うちはそういうのはぜんぜんできなかったですね。

【ライフスタイル】仕事よりも家庭が大事だった


小野 私とあっちゃんはかなりタイプが違うんです。価値観はわりと似ているんですけど、考え方や表現方法、コミュニケーション方法が違うので、いろんなことがよく食い違います。私はわりと目先のことに捉われがちで、物事を考える時もすごく小さなことから考え始めるタイプなんですが、あっちゃんは逆で、すごい大きな視点で考えているみたい。あと、考えている期間もぜんぜん違って、あっちゃんはすごく長いんです。くだらないエピソードなんですが、ちょっと前にいきなり車を買ってきたんですよ! まるで大根を買うみたいな調子で「車買ってきた~」って言われて、ものすごくびっくりして。 いや、確かに10年くらい前から車を買おうかという話はなんとなく出てたけど、一向に買う気配もないから、もう買わないんだなって私は思ってたの。私だったら、「悩んでる」とか、「こんな色にしようか」「こんな車にしようか」と相談して、一緒に買いに行く、という流れになると思うんですけど。

西川 私のほうはもう10年前の時点で車を買うことは決定、ただ買う時期を悩んでいて、タイミングが来たから買っただけ。

小野 お金の使い方はちゃんと決めているというふうではなくて、子どもにけっこうお金がかかるので、お互いの収入のほとんどを教育費と家計に使っている、という感じ。自転車操業ですね(笑)。 家は私が離婚する前から住んでいた家だったので、私に紐付いていて、光熱費などは私の口座から落ちてます。あっちゃんのほうが稼いでいるから、生活費を多めに、外食や旅行などの遊興費、大きな出費も出してくれています。

西川 同居して、生活を成り立たせるために、教育業界に転職したんですよ。それまではバイトしつつイラストを描いてたんですけど、イラストの仕事は不規則なので、36時間起きてるかと思ったら、ずっと暇という日もあって、ちゃんと子育てができない。稼げる稼げないという点ももちろんあるんですけど、わりと稼げてた時期ではあったんですが、ひとりなら何とかなっても子ども3人だと無理、あきらめるしかない。そこはちょっと寂しかったですね。でも、家庭か仕事かだとしたら、家庭のほうが大事だった。

小野 今、あっちゃんは仕事が忙しくて、あまり家にいないです。私はリモートワークなので、家事をやりやすい環境。干渉しすぎないように、互いのペースを大切にすることを心がけています。

西川 片方の仕事が忙しいときは、もう片方の家事の負担が大きくなってしまいますね。できるだけ1日1食は家で食べるようにしているのですが、家で食事を作るということは買い物、ストックの整理、調理、後片づけ、ゴミ出しと、付随する家事が増えてしまうんですけど。

【今後のライフプラン】第二の人生、ラブラブしたい


小野 3人の子どものうち、ひとりは独立、ひとりは寮生活になって、これから第二の人生になるわけですけど、まだ流動的で、将来設計というほどのものはないです。でも、楽になったなーとは感じますね。自分も趣味の時間を持つようになったし、あっちゃんは仕事に打ち込むようになった。前までは子どもに何かあったときにすぐ対処できるようにっていう視点で仕事を選んでたから。カップルとしては、子育てが一段落してようやくふたりで過ごせるねって思ったときには家族化していてびっくりしました(笑)。ラブラブする情熱がお互いになくなっていて……。

西川 やっぱりね、子ども中心で、ふたりで向き合うというよりは子どもの面倒をみる、そういう感じのカップルだと思いますね。男女だったら、男と女っていうよりは、お父さんお母さんみたいなカップル。私が得意じゃない部分を春ちゃんは得意で、得意なところがかぶってないので、それはすごく良かったと思います。私は男性と結婚してたときは、椅子取りゲームみたいになっちゃったから。

小野 でも、ラブラブ期間が一回もなかった! 私はまだあきらめてないって主張しているので、あっちゃんも気を使ってデートプランを考えたりしてくれています。

西川 私は稼げなくなってからの人生の長さ、お墓のこととかを考えてしまうんですよね。今は、働けるうちに働いて、お金を増やしておきたいと思っています。

小野 自分はお金のことを相談するのがすごく下手で。でも、子どもにかかるお金も減ってきているから、そろそろ老後のことを話し合わないとなとは思ってたんですが……。

西川 先日、ついにお金のことを話し合いましたね。春ちゃんって数字に無頓着で、数字を恐れてるというか、15時と5時を間違えちゃうような人で、自分が持ってるのが10万100万なのか、1000万なんだかわかんないんです。一緒に貯めてるお金と、私は個人で貯めたお金もあればひとりで使ってるお金もあるので、何がどこに入っているかきちっと明確に把握しているんだけど。

小野 お互いに実子がいるから、それぞれの財産は相続税が少ない実子が相続すればいいと考えています。互いに遺して国に税金を吸い上げられるようなことは避けたいので、遺言は作っていません。

おふたりからのメッセージ

小野 家族としては、そこらへんにいる“当たり前”の家族だと思います。よく「子どもが不幸になる」とか言われるし、もちろん社会の壁がないわけではないけど、子どもを育てるのは性別に関わらないこと。見たことがない人は「そんなもん存在すんのかよ」とか「新しい家族だ」とか思うかもしれないけど、日常のなかにいると新しくもないし、ただの家族なのよっていう話でしかない。別に子どもがいるのはいいことだと思ってるわけじゃなくて、子どもがいなきゃとか、いたほうがいいとかもぜんぜんないんだけど、もし、子ども欲しい、子育てしたいと思ってる人がいるんだったら、うん、そうだね、できるよ、そんなにたいした話じゃないよっていうふうに思う。私もたいしたもんだと思ってたのよ、でも、やってみたらね、たいしたもんじゃなかったの。同性同士で子育てしてても、それは他愛もないことなんだよってことが伝わるといいんだけどね。

西川 「結婚の自由をすべての人に」裁判の原告として、最高裁の判決が出るまではいろんなことを発信していきたいと思っています。今は裁判に時間を費やしてますが、終わったら時間が空くと思うので、何をやろうかなと考えていて、ひとつは国勢調査で同性カップルが数えられていない件に関して取り組んでいきたい。もうひとつは、市民運動として想いを小説にしたいと思っています。自分のことではなく人の話を、こういう感じでインタビューして、その人をモデルに書きたい。裁判で意見陳述などを聞いていると、すごい物語でみんなの胸を打つものがあるのですが、そのままだと読みにくいから、フィクションとして小説投稿サイトにアップしていったらいいんじゃないかなと考えています。

text by Mami Hagiwara / photo by Emi Yasuda / interviewed by みらいふ編集部
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