プロフィール
左/石橋亜美さん(34歳、パンセクシュアル・ノンバイナリー、会社経営、福岡県出身)
右/副島沙智さん(38歳、パンセクシュアル、デイサービス勤務、東京都出身)
パートナーシップ 2017年~(2025年現在、8年目)
住まい 福岡県
利用制度 パートナーシップ制度 あり(2022年) 緊急連絡先カード:あり
出会いの始まりはアプリ

セクシュアリティやジェンダーに関する考えが似ている石橋さんと副島さん。2人の出会いは今から約7年前、「LING」というレズビアンSNSでした。石橋さんは彼女と別れたタイミングで友だち探しのためにアプリを入れたところ、当時セクマイ向けのオフ会を主催していた副島さんを見つけ、「私も参加したいです」と連絡をしたとのこと。
そしてオフ会当日。「オフ会に参加し、別の用事があって一旦抜けました。その後、『まだ新宿で飲んでるよ』と連絡が来たので、再び合流しました。そこで初めて沙智とじっくりとお話しして、気が付けば朝になっていて」と石橋さん。それから個人的にやり取りを始め、1週間も経たないうちに交際がスタートしたそうです。
当時オフ会を主催していた副島さんは、「スタッフだったので周りが楽しんでくれればそれでいいという気持ちで、恋愛に対する意識はあまりありませんでした。ですが、しっかりと相手を見て自分の意見を話す姿に、『26歳なのにしっかりしてるな。この人に甘えたいな』という気持ちが芽生えていて。解散するときには『本当にこの人が好きだ』と思い、それから猛烈アピールを始めました(笑)」と、当時を振り返ります。
2人で乗り越える同棲生活とは?福岡移住の決断
お付き合い1年で同棲に至った2人。最初の頃は、互いに状況が整っていなかったと話します。そこで、副島さんは実家を出て、お互いに近い場所で一人暮らしを始めたと言います。
一人暮らしをしてから、2人はどちらかの家に入り浸るようになったそう。1年間の一人暮らし期間を経て、2人で物件を探し同棲を始めました。石橋さんは「一人暮らしをしていたときは別々の生活をしている感覚がありましたが、実際に一緒に暮らし始めると、物事を共同で進めていかなければならないことが多くなります。協力してなんとかしなければならない気持ちが芽生えました」と話します。
「生活での役割分担は?」と聞いたところ、石橋さんは「パートナーに助けられている部分がある」と一言。続けて「実は、父親ががんでつい最近亡くなって」と話しました。もともと埼玉に住んでいた2人ですが、石橋さんのお父さんにがんが見つかり、副島さんが背中を押す形で故郷の福岡に移住することに。
石橋さんは「埼玉に住んでいたときは今より家事も頑張っていたのですが、父親のがんが見つかってから精神的に参ってしまったところもあり、沙智が身の回りのことをやってくれていました。やっと復帰しつつあるので、徐々に頑張りたいです」と、心の内を明かしました。
また、取材中には2匹のペットも顔を出してくれました。「こっちはパピヨンで、こっちがチワワ。パピヨンは以前から沙智が飼っていて、チワワは同棲後しばらくして、沙智の一目惚れで飼うことになりました」と、石橋さん。ペットを飼うLGBTQ+カップルは多くそれぞれの思いがありますが、2人は「ペットがいてくれたからこそ距離が縮まる。お互いの落とし所が見つかることもあります」と話しました。

前代未聞のプロポーズ
さまざまな困難を一緒に乗り越えてきた2人ですが、実は付き合って8ヶ月目で石橋さんからプロポーズをしていたそう。きっかけはパートナーのキャリアチェンジのタイミング。「沙智は保育士として働いていたのですが、新しい業界に挑戦したいと相談をしてくれていました。私は当時の仕事で割と安定していたので、どう転んでも支えになりたいと思っていました。そこで、ちょうどその時期のクリスマスにプロポーズをしようと決めたんです」と振り返ります。
プロポーズリングと1本のバラ、プロポーズの言葉を受け取った副島さんですが、「プロポーズには気づかなかったんです」と一言。食後に外を歩きながら「あれってもしかしてプロポーズだったの?」と、ようやく気づいたようです。さらに「私は格式の高い食事の場が得意ではなくて。たしかに景色は綺麗だったのですが、なぜここに連れてこられたのかと疑問でした。渡された1本のバラもどういう意味があるのかわからなくて、プロポーズだと気づきませんでした」と続けると、石橋さんは「あれぇ」といった顔で笑っていました。
パートナーとストレスなく生きていくための「婚姻の自由」
お付き合いを始め、同棲、プロポーズなど、2人の間でさまざまなイベントがありました。異性カップルであれば次のライフステップとして「結婚」を考える場合も稀ではありませんが、LGBTQ+カップルの中では結婚ができないということも。
同性婚について尋ねてみると、2人は口を揃えて「法制化してほしい」と話します。「付き合っている相手と将来を考えたとき、自分の財産や愛犬など、大切にしているものがいざというときに相手に直接渡らないのではないかと不安になります。相手に悲しい思いをさせたくないという気持ちが強いからこそ、結婚という形を取ることで、大切な権利がしっかりと相手に渡ることを望んでいます」と副島さん。
婚姻の自由が認められないということは、配偶者としての権利が証明されないということ。石橋さんは「片方の名義で住まいを借りていた場合、残された人がその家に住み続けることはできません。財産がパートナーに渡らないことも珍しくありません。携帯電話の契約を解除することもできません。結婚という形を取ることで、そうした問題が一気に解決され、ストレスが大きく減るのではないかと思います」と話します。

あらゆるマイノリティ性をもつ人たちのための居場所をつくりたい
LGBTQ+当事者や同性婚に対しての理解は、地域によっても異なるのではないでしょうか。石橋さんは「私は九州レインボープライドをきっかけに知り合った人たちから輪が広がっていきました。ただ、福岡にはレズビアンバーが3軒ほどしかなく、イベントもたまにしか行われていないので、それ以外の場所での情報はあまり知らないですね。博多や天神のエリアまで出ていかないと、居場所は見つけられないというのが現実です」と、地域コミュニティについて言及しました。
このような現状を受け、2人は「将来的には何かしらの理由でマイノリティとなった人たちが、『自分はここにいてもいいんだ』と感じられる自宅カフェのような場所をつくりたい」と話します。
副島さんは「不登校や家庭環境に問題がある子どもたちが、家でも学校でも居づらいと感じている場合、何も知らない場所で自分らしく過ごせるような環境がつくれたらいいなと思うんです」と語りました。
無意識に性別によるカテゴライズをしていることも
さらに、石橋さんは自身の経験から「社会構造から性別をなくす」を掲げ、会社を設立。もともとは前職ではカミングアウトをしていなかった石橋さんですが、会社を辞めるタイミングでセクシュアリティをオープンにしたことで、実は性に関して苦しんでいる方たちが話しかけてくれたと言います。石橋さんが「正直、私と同じような人がいるとは思わなかったので驚きましたが、それと同時にとても嬉しかったのを覚えています」と言うように、意外にも当事者や「そうかも?」と思っている人は少なくないそうです。
そして、自身の会社で事業を進めるなかで、特にキャリアを積んできた女性たちから共感を得ることが多いと話します。「彼女たちは男性中心の社会で頑張ってきた経験があるため、私の考え方や行動に理解を示してくれることがあります。しかし、同じセクシュアリティをもつ人たちであっても、価値観や考え方に違いがあり、その多様性を理解することは大切なことです」と石橋さん。続けて「それでも、無意識に性別によるカテゴライズをしている人が多く、それが当たり前の文化として根付いていることに強い違和感を覚えます」と心の内を明かしました。

「性別」という記号を身に纏う
石橋さんは「まずは性別に対する考え方自体を見直すことが必要」と話します。「LGBTQ+という枠組みのなかでも、人それぞれの考え方や価値観があることを理解し、受け入れること。そして、誰もが自分らしくいられる社会を作るためには、その多様性を尊重し、理解する文化を育てていかなければならない」と、思いを語りました。
さらに、「先日、父の葬儀にスーツ姿で出席したのですが、男性用のスーツを着ていたためか、親戚に私であることをぱっと認識されませんでした。服装で無意識のうちに性別を判断しているという、性別に対する固定観念が強く存在することを実感しました。特に葬儀のようなフォーマルな場では、性別が明確に区別される傾向があり、少しでも外れていると理解されにくいことを実感しました」と、自身の経験を通していかに性別という記号が人々の考えを左右しているかを実感したと言います。
それでも、「性別に対する考え方を見直していきたい」「当事者が息をしやすい社会をつくりたい」と願う石橋さん、副島さん。2人の想いが少しでも実現する社会になれば、1人また2人と、道の選択肢が増えることでしょう。
おふたりからのメッセージ

石橋:今でこそ「自分らしく堂々と生きる」ことを決意し、行動していますが、かつては自分のことを素直に話すのが本当に怖くて、特に身近な人に対しては震えるほどでした。一時期は、自分さえなんとか生きていければいいと思っていましたが、それでは世の中は変わらない。同じように悩み苦しむ人がいるはずだと思うと、その現実に向き合わずにはいられませんでした。
今回の取材を通して、私たちの経験がどなたかのお役に立てたなら、こんなに嬉しいことはありません。お読みいただき、心から感謝しています。
副島:この記事を読んでくださり、ありがとうございます。
顔写真や実名で取材を受けることには正直、迷いもありましたが、自分たちの経験を公表することで、同じような悩みを抱える方々が少しでも自分らしく生きる勇気を持てたら嬉しいです。また、こうした悩みが自然に受け入れられる社会になってほしいという思いもあり、この決断に至りました。
一人でも多くの方が笑顔で日々を過ごせることを心から願っています。


